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魚のヒミツ−鰾(ウキブクロ)

鰾(ウキブクロ) これで浮力を調整します

なぜ、魚に鰾があるのだろう?まず第一に思い浮かべる事は、そのものズバリは浮き袋です。魚も水より比重が大きいので、水中を上下に移動したり、自由に泳ぐためには、水中での浮力の調整が必要になってきます。それでは、もう少し詳しく鰾の秘密を探ってみましょう。

鰾の役割

浮力を得るための大切な器官

鰾は、ほとんどの硬骨魚類において消化管の側面もしくは背面に膨出して形成されています。この内部にガスを出し入れして浮力の調節を行います。ガスの出し入れの方法は、鰾に血液中に溶け込んでいるガスを取り出せる腺がならんでおり、そこから血液中のガスを取り入れたり送り出したりすることで行っています。

深海に住み海面まで移動する一部の魚には、鰾の中に比重の低い脂(ワックスエステル)が詰まっているものがいます。ガス調整だけではその機能が追い付かないため、その代わりに脂を詰めている訳です。ヒトがこのワックスエステルを食べた場合、体内で消化が出来ないため、下痢や食中毒を起こす事があるので注意が必要です。(バラムツ、アブラソコムツ、オオメマトウダイなど)

海釣りをする人はご存知の方が多いと思いますが、比較的深い所に生息する魚を一気に水面に釣り上げた時、浮上速度に浮力調整が追い付かず、腹部が膨らんで海面に浮き上がってしまう事があります。中には口から鰾が飛び出してしまうものもいます。タイを釣り上げた時などは、海面付近でバラしてしまっても焦らずに待っていると自然と浮き上がって来る事があります。この現象は、BCを使って中性浮力がまだ上手く取れないビキナーダイバーでたまに見られる事ですが、水深が浅くなってきた時にどんどん浮き上がっていってしまうのと同じ現象です。(吹き上げは重大事故につながるので注意しましょう)

音を出すための器官

一部の魚(ニベ、カサゴ、シマイサキ、ホウボウ、イシモチなど)には音を出す魚がいます。その原理は、鰾に強い筋肉が付いており、それを震わせることで鰾が共鳴して、それが振動音(鳴き声)となります。音を出す理由としては、産卵期などに見られる求愛行動や危険が迫った時の警戒音また敵と出会った時の威嚇音などが挙げられます。

イシモチは鳴き声を発する事から英語名で”Croaker”(ガーガー鳴くもの)などと呼ばれています。また、グチ類(ニベ科の魚)は産卵期になると沿岸に何千匹も集まり、いっせいに求愛の唄を歌いだすため、海底から響いてくるその声で眠る事もできないと言われます。

ホウボウの鰾

(写真:ホウボウの鰾)

音を感じるための器官

魚も音を感じます。中でもマイワシ、カタクチイワシ、アカマツカサ、チゴダラなどは鰾が特別な役目を果たすために、聴覚が非常に優れる魚と言えます。耳が良いと言っても、実際に人間や他の動物のように立派な耳が付いている訳ではありません。これらの魚の鰾は、その先端から細い管が突出して膜を介して内耳と接しています。(詳しくは聴覚器官で説明します。)

また、コイ目、ナマズ目の魚類はウェーバー器官(注)と呼ばれる器官が発達しており、鰾と内耳の球形嚢と連結しています。つまり、鰾が水中を伝わる音(振動)を増幅して内耳に伝えるのであります。

(注)ウェーバー器官:内耳と鰾の間にある4個の小さな特別な骨が靭帯によって鎖状になり両者を連結している器官。

浮き袋の無い魚

鰾は硬骨魚類特有の器官であり、原始的な魚である無顎類(ムガクルイ)のヤツメウナギやヌタウナギなど、軟骨魚類のエイやサメ類には存在しない器官です。元々、魚には鰾のように浮力を調節する器官存在せず、魚が大きな進化を遂げた時(硬骨魚類の発生)に現れた器官と考えられています。

更に、深海に棲む魚にも浅い場所に移動することがないため鰾を持っていないものがいます。また、鰾が退化した代わりに、体内にワックスエステルを蓄えているものもいます。ヤツメウナギやヌタウナギなどは浮き上がる事が苦手で、ほとんどは低棲生活を送っています。

一方、サメやエイは泳ぐことで浮力を得ており、泳ぎを止めてしまうと体が沈んでいってしまいます。また、サメの中でも深海に生息するサメは肝臓の中に軽いオイルを蓄え(健康食品でサメの肝油など小耳にはさんだ事があると思います)、これを鰾代わりに使っています。巨大なジンベイザメが浮かんでいられるのも大きな肝臓があるためにです。

[トリセツ・カラダ]
「チーム・バチスタの栄光」の作者、海堂尊氏が現役医師の立場から執筆した体の取扱説明書。とてもわかり易く、楽しく解説され、読み終わった時には「カラダの地図」がサッと書けるはず。